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東京地方裁判所 平成4年(ケ)3214号 決定 1992年10月12日

当事者 別紙当事者目録のとおり

担保権

被担保債権

請求債権}別紙担保権・被担保債権・請求債権目録のとおり

主文

債権者の申立てにより、上記請求債権の弁済に充てるため、別紙担保権目録記載の抵当権に基づき、別紙目録記載の不動産について、担保権の実行としての競売手続を開始し、債権者のためにこれを差し押さえる。

理由

1債権者の申立て

本件は、抵当権の実行として別紙物件目録記載の土地建物の競売を求める事件である。

本件において提出された登記簿謄本によると、下記の抵当権実行通知の点を除いて、担保権実行の要件は具備されている。

本件所有者である東京世田谷運輸事業協同組合(以下「東京世田谷運輸」という。)は、抵当権の設定登記後真正な登記名義の回復を原因として所有権移転登記を取得した者であるが、債権者は、東京世田谷運輸に対して、抵当権の実行通知をせずに、本件の競売の申立てをしている。そこで、抵当権の設定登記後真正な登記名義の回復を原因として所有権移転登記をした者は、民法三七八条のてき除権を有するか否かが問題となる。

2当裁判所の判断

民法三七八条のてき除の制度は、抵当権の設定されている不動産について新たに所有権を取得し又は用益権の設定を受ける第三取得者を保護して、抵当不動産の取引を円滑にするというものである。このような制度の趣旨からすると、抵当権の存在を前提とした取引行為によることなく所有権を取得した者は、てき除権を有しないものといわねばならない。

ところで、真正な登記名義の回復による所有権移転登記は、現在の登記名義人の登記が不真正なものであることを前提として、その抹消登記に代えてされる移転の登記である。そして、現在の登記名義人の登記が不真正なものである場合とは、その登記が登記原因なくしてされたものであるか(例えば、登記が仮装のものであった場合)、あるいは登記原因が消滅したか(例えば、登記原因である取引について、詐欺による取消しや債務不履行による解除があった場合)いずれかの場合をいうものである。

したがって、抵当権設定登記後にされる真正な登記名義の回復による所有権移転登記は、抵当権の存在を前提とした新たな取引行為による所有権の移転を表示するものではない。

もっとも、現実に売買契約等の取引行為があるのに、登録免許税の面で有利である等の理由で真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記がされる場合も、ありうるところであろう。しかし、てき除権者への抵当権実行通知をする抵当権者にとって、登記が殆ど唯一の判断資料となることを考えると、取引行為の存在を表示する通常の権利移転の登記をしようと思えばできたのに、便宜的に取引行為の不存在を表示する真正な登記名義の回復を原因とする登記をした者は、抵当権の実行通知をすべきてき除権者には当たらないというほかない。

したがって、抵当権設定後に真正な登記名義の回復による所有権移転登記をした東京世田谷運輸はてき除権者とは認められないから、これに対して抵当権実行通知をする必要はない。

(裁判官杉原麗)

別紙当事者目録<省略>

別紙担保権、被担保債権、請求債権目録<省略>

別紙物件目録<省略>

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